むかし、むかしあるところに、有限会社噴霧器という会社がありました。そこの社長はプログラムを書いては売ることを生業としておりましたが、「PHP教」という宗教法人を立ち上げて、鯖の干物をご神体とし、プログラムソースを「神のお告げ」、お客さまを「檀家」と呼んで、「お布施」を非課税にできないものかと考えているような、ちょっと変わった人でした。
ある日、株式会社共通言語体系という会社から、噴霧器社にプログラミングを手伝ってくれないかという相談がありました。共通言語社はMt.Fuji Comという大企業の子会社から依頼を受けてPHPでできたサイトを改修することになりましたが、開発者が不足していたのです。
噴霧器社はその予算を聞き、よろこんで引き受けました。ただ、その仕事にはちょっとした問題がありました。「絶対にこのサイトを作っているところを人に見られてはいけない。」と共通言語社の担当者さんから強く言われたのです。
社長ともう一人の若いスタッフはその戒めを守るべく、人目のある会社では作業せず、昼間の仕事が終わってからそれぞれ自宅でやることにしました。若いスタッフはまだ一人暮らし。会社が終わると自宅に直行し、夜な夜なその仕事に取り組みました。
社長のほうは少し事情が違います。彼には妻と娘がいたのです。毎晩家に帰っては地下の自室に閉じこもり、プログラムを書き続けましたが、普段めったに家族は彼の部屋には入ってこないので、安心しきっていました。
ところがある日、娘が自分で作った折り紙を見せようと、突然ドアを開けて部屋に飛び込んできました。まだ小学生になったばかりの娘は、2台のモニタに映し出されたサイトの画像を見てびっくりした様子で、父親に尋ねました。
「パパ何やってるの?」
社長は羽があったら飛び去りたい気持ちでいっぱいになりながらも答えました。
「お友達から相談されて、ネットでいろいろ調べ物をしていたら、こんなページが出てきたのだよ。言っとくけどこれは仕事だからね。さあ、もう上に戻りなさい。」
娘は素直にリビングに戻っていきましたが、何やら母親に話している様子が聞こえてきました。
モニタに映し出されていたのは、改修中の成人向けサイトの素材であるアダルト系の写真と下ネタ満載のテキスト。共通言語社の担当者さんの言った「絶対人に見られてはいけない」は「守秘義務」でもなんでもなく、今はやりの「道義的」な理由だったのです。
その後その社長は、自室でどんなサイトを見ていても、家族にはすべて「仕事だ」で押し通せるようになったとさ。
めでたし、めでたし。
「IT日本昔ばなし: つるの開き直り編」への1件のフィードバック
コメントは受け付けていません。